1975年の冬、北陸のとある工場へ出張していたときの話。
繊維機械装置の据え付け工事と立ち上げのためで、私はさまざまな職種の人間と一緒に、福井県鯖江市郊外の工場に通っていた。
宿は市内にあった。飯場のような宿で、部屋の壁はベニア一枚。外の寒気が否応なく押し寄せてくる。個室などなく、相部屋だった。ホームこたつに四方から足を突っ込み、そのまま眠った。若かったから、特に不自由とも思わなかった。
工事が一段落し、試運転に入るころ、検査の部隊がやって来た。彼らは別の宿に泊まることになり、その中の先輩に「こっちへ来いや」と声をかけられた。
同宿の責任者に事情を話し、宿の主人に「仕事が終わったので帰ります」と言って、その宿を出た。
その宿には、小学校低学年くらいの女の子がいた。目が大きく、雪国の子らしく頬が赤かった。声をかけると、照れたように笑った。
「さようなら。また来るね」
そう言って別れた。彼女は何も言わず、ただ笑っていた。
翌朝、新しい宿から雪に覆われた町を歩いて工場へ向かった。途中で、昨夜まで一緒だった連中と合流し、二十人ほどの集団になった。
登校中の小学生たちとすれ違った。皆、足元の雪を見つめ、まだ誰も踏んでいない白い面を選ぶように歩いていた。
ふと視線を感じ、顔を上げた。
小学生の集団の中から、じっとこちらを見つめる黒い瞳があった。二、三歩進んで、それが誰なのか分かった。昨夜、別れの挨拶をしたあの少女だった。
私はとっさに目をそらした。声もかけず、そのまま歩いた。振り返らなかった。
五十年も前のことだ。
だが、雪が降る朝になると、黒い瞳と赤い頬の少女が、不意に思い出される。理由のない、かすかな罪悪感とともに。
年を重ねた今になってもまだ、その視線を忘れてはいけない気がしている。